TabaimoHouse of Tokyo Art World JP

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束芋 ハウス


2008年12月20日~2009年2月14日
GALLERY KOYANAGI


束芋ワールド

2009年2月1日

会場は銀座にあるギャラリー小柳。エレベーターを出るとまず展覧会のサインが目に入る。ギャラリー内の照明は抑え気味だ。白い壁面には黒と金の重厚な額縁に収められたスケッチが壁一面に展示されている。描かれている主題は手だ。手に蛸の足が絡みついたり、手の皮膚がめくりあがり、その下の血管や筋組織があらわになった姿が、強く迷いのない線で描かれている。描かれた手の形は必ずしも人間の手を写実的に表現したものとは言い難いが、表現されたそれの手は端的に言って目立つ。思わずしげしげと見てしまう力がある。それぞれの手は白い紙の上に、おそらく鉛筆だけで描かれており、色はまったく加えられていない。シンプルだが、作者の確かな描写力を感じさせるスケッチ群である。

入り口左奥には暖簾状に取り付けられたシートで仕切られた暗室があり、室内はプロジェクターによるアニメーションが上映されている。ちなみに、この暗室に入る手前右側には壁面いっぱいに描かれた扉と思われる作品が展示されている。この作品の特徴は、描かれた扉の一部が誰かにビリッと千切り取られたように前面に垂れ下がり、千切り取られた部分の裏側にも、千切り取られた部分が元々張り付いていた部分にもそれぞれ別の絵が表現されており、元々は絵画なのに新たに立体的な作品に仕上がっていることだ。

さて、その暗室。アニメーションをしばらく見ているとそれが、取手を持ち、それを両側に開くと内部に洋館風の空間が登場し、そこに天蓋付きのベットや化粧台、椅子などを加えていくことで自分好みのハウスに仕上げる、そんな女の子の玩具を主題にした作品であることが読み取れる。スクリーンの手前からは、先ほどから幾度となく目にした手が、今度は左右の手だけではなくそれぞれの上腕部も一緒に、ヌッという形で登場し、ハウスの中に一つ一つ、椅子を加えたり、テーブルの上にクロスを引いたり、クローゼットの中から枕を取り出しベットの上に置いたりしていく。ハウスの中にそうした新たな一部分が一つ一つ、右腕と左腕により加えられていくたびに、そのことがあたかもハウス自体に生命を授ける行為であるかのように、次第に大きくなっていく心臓の鼓動らしき音と共に、わさわさとどこからともなく血管らしきものが湧き出し、ハウスの壁面を這い回る。

時を同じくして、ハウスに命を吹き込む役割を果たしてきた右腕と左腕に異変が生じる。まるで、次第に命を持ち始めたハウスから発散された目に見えない胞子のごときものが右腕と左腕に降りかかり、それがやたらと痒くて仕方がない、そんな様子で左右の手で両方の腕をぼりぼりと掻き毟る。掻いては、先ほどから続けている"ハウスに命を吹き込む作業”を続け、そしてまた掻く。やがて、次第に掻く頻度が多くなり、バリバリボリボリとやたらめったら、掻き過ぎて血でも噴出すのではないかこちらが思うくらい、掻きまくる。そして、ついには、、、

この続きはぜひ実際にギャラリーに足を運び、自身の目で確かめて欲しい。その他、ギャラリー内にはアーティスト・束芋を扱った本、彼女の過去の作品等を紹介したDVD等が展示・販売されている。その中のひとつの作品、おそらく1999年に彼女が発表したという「にっぽんの台所」と思われる作品も一部確認できる。そこに描かれている風景および登場する人間たちの表情、姿かたちは一種漫画的だ。そのためだろうか、一方で妙にグロテスクな印象を受けるにもかかわらず、他方ではなぜか愛嬌があり、強い個性を感じさせる作品に仕上がっている。ハウス同様、確かな描写力に支えられた、予想もつかないような世界を描く能力は見事というほかにはない。

いずれにせよ今回の展覧会を通じ、アーティスト・束芋の作品に触れることができたのはうれしい驚きだ。これからも彼女が作り出す束芋ワールドを見てみたいと強く思う。

この展覧会の詳細は下記まで。

http://www.gallerykoyanagi.com/



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