PoiretAndFortuny of Tokyo Art World JP




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ポワレとフォルチュニィ 20世紀モードを変えた男たち


2009年1月31日~2009年3月31日
東京庭園美術館


作品と空間の調和

2009年3月1日

今回の展覧会は、財団法人東京都歴史文化財団が発行するART NEWS TOKYO という冊子を通して知ることになった。この冊子内には、モザイク状に装飾された床面とオレンジ色のライトに暖かく背面から照らされたガラス状の壁面の前に展示される2対のドレスが写された写真と共に、本展覧会のことが紹介されている。

私が展覧会に足を運んだ当日は、フランス文学者の鹿島茂氏の講演が関連企画として催されており、展覧会を見る前に氏の話を拝聴した。鹿島氏は、「パサージュ論」で知られるヴァルター・ベンヤミンの思想を、19世紀末から20世紀にかけてのパリの建築様式、およびその当時のモードに関連付けて話を進めていたように思う。

その鹿島氏の話の中で特に印象に残ったのが、「モードの歴史において、ある一つの流行が隆盛を迎えているとき、流行はそれがもつ一番の特徴をより一層強調する形でどんどん発展していく。だが、ある時点でその強調されすぎた特徴が格好悪いものとして人々に認識される時が訪れる。この時、モードは大きく次の流行へと変化する。ただし、その変化とは全く新しい流行が突然登場するわけではなく、昔の流行が甦ったり、歴史や伝統から着想を得る形で新しい流行を生み出される」という言葉である。

このことを端的に示しているのが、本展覧会で紹介されているポワレおよびフォルチュニィのドレスであろう。それまでのドレスは、それが華美であればあるほど良いという風潮があり、その流行の特徴として、コルセット、そして、コルセットにより極端に細くされた女性のウエストをさらに際立たせるためのウエストからドレスの裾にかけてまるで傘のように広がった形(この形にも固有の名称があるらしい。)があったようだ。この流行の最盛期には、コルセットはますます女性のウエストを締め付け、傘のような形状は一層大きく周囲に広がるようになったという。これが極端に強調され過ぎてしまった時、人々は突然それに嫌気がさし、飽き飽きし、新しい流行を次第に求めるようになったと思われる。人々のそうした心の動きをポワレ、フォルチュニィは敏感に感じ取り、当時では革命的とも言えるスタイルを世に提案し、モードに大転換をもたらした。それが、ポワレのゆったりとしたハイウエストのドレスであり、フォルチュニイのデルフォス・ドレスであるようだ。

彼らの生み出したドレスを実際に目にすると、上に述べた鹿島氏の話が思い出されてくる。どちらのドレスも決して全く新しい形というわけではなく、むしろ西洋世界の古代のシンプルなドレスを彷彿させる。実際、その名前からも分かるようにフォルチュニィのデルフォス・ドレスは古代ギリシャの衣装に着想を得ており、デルフォスの名前もデルフォイから来ているようだ。どのドレスも基本的にはシンプルな作りであるが、装飾が全く施されていないわけでもない。特に、会場の2階に展示されたポワレのドレスは、中東や日本などの民族衣装の影響を色濃く感じさせるものが数多くあった。

ポワレおよびフォルチュニィの二人のドレス、特に会場の1階に展示されているドレス、を眺めていると、あることに気がついた。それは、二人のドレスが実に違和感なく展覧会の会場である東京庭園美術館の空間に溶け込んでいる、という事実である。仮に、この空間で催されるパーティーにて二人のドレスを着こなした貴婦人の姿をお目にすることができたとしたら、それは見事な光景であるはずだ。おそらく、ポワレおよびフォルチュニィのドレスが生み出された時期と東京都庭園美術館が建築された時期が、1920年から30年代にかけての同時期であるという事実が、この見事な調和を生み出している原因の一つであるのかもしれない。東京庭園美術館は元々皇族の朝香宮邸として1933年に建築されたものであり、1920年から30年代にかけてヨーロッパで支配的だったアール・デコ様式に則って施工されているという。

通常、アート展覧会と言えば、美術館であれ、ギャラリーであれ、アートフェアであれ、会場は白い壁面に囲まれた、ミニマリスティックで直線的、かつ現代的な空間であることが多く、展示される作品とその周囲の空間の間に調和を見出すことは難しい。これには、展示される作品そのものに来場者の注意が向けさせることができるという利点はあるものの、そうであるが故になおさら、作品はあくまで展示のための作品という性質を拭い去ることは困難である。だが、本展覧会では、もちろんポワレおよびフォルチュニィのどちらのドレスも来場者の展覧に資するために展示されているわけであるが、そうした意図を超越し作品であるはずのドレスが周囲の空間と見事に調和し、ある一つの世界を生み出している様が本展覧会の一つの特徴として指摘することができると私は考えている。

この展覧会の詳細は下記まで。

http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/poiret/index.html


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