オラファー・エリアソン 《投影される君の歓迎》 2003年 森美術館 撮影: 渡邉 修 写真提供: 森美術館マシュー・リッチー《家庭農園》 2001年 森美術館 撮影: 渡邉 修 写真提供: 森美術館リテュ・サリン&テンジン・ソナム 《人間の存在に関する問答》 2007年 Commissioned by Thyssen-Bornemisza Art Contemporary、森美術館 撮影: 渡邉 修 写真提供: 森美術館
万華鏡の視覚 : ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより
2009年4月4日~2009年7月5日
森美術館
異なる視点
2009年6月30日
本展覧会は、優れた現代美術の所蔵で名高いティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションと森美術館とが共催す企画展である。ジャネット・カーディフ、オラファー・エリアソン、マシュー・リッチー、スゥ・ドーホーなど世界的に活躍するアーティストの主要作品をダイナミックなインスタレーションを中心に楽しむことができる。
万華鏡の視覚とは何か?アーティストとは、この世界を独創的な視点で捉え、作品を通して新しい物の見方を我々に提示してくれる存在である。その作品に触れたとき、我々が従来慣れ親しんでいる感覚は大きく揺さぶられ、普遍的だと信じてきた認識は覆されることになる。万華鏡が多様で魅惑的な視覚を映し出すように、世界とは決して単一の視点により認識、理解されるべきものではない。そのことに気づいて欲しい。企画者が本展覧会を通じて我々に伝えたいことはこのようなメッセージだろうか。
それでは、本展覧会の幾つかの作品を紹介しよう。まずは、オラファー・エリアソンの「投影される君の歓迎」。スポットライトにより白い壁面に投影されたが青や黄色の影がまるで刑務所のサーチライトのようにゆっくりと動いていく様子が面白い。
次はマシュー・リッチーの「家庭農園」。一見すると、子供が乱雑に描き散らしたように見える作品だ。にもかかわらず、なぜか心惹かれる作品なのである。作者の頭の中に渦巻く色々な思考がごっちゃになってひとつの平面上に表現された、そんな印象を受けた。私見だが、この作品は「星の王子様」の挿絵にぴったりである。
最後に紹介するのがリテュ・サリン&テンジン・ソナムの「人間の存在に関する問答」である。この作品が今回の展覧会で一番印象深かった。この作品は正確に言えばアート作品ではなく、ドキュメンタリー作品である。尤も、何がアートで何がアートではないのか、という問いに対する明確な解答を私は持っていない。とにかくこの作品は、一般には馴染みの薄いチベット仏教の僧侶が過去1000年以上にも渡って実践してきた悟りに至るための修行法を記録・上映した作品である。
読者の皆さんは「悟りに至る修行法」と聞いて、どのようなイメージを連想されるだろうか。座禅を組み、瞑想を行い、念仏を唱え、ひたすら自己鍛錬に励む修験者の姿を思い浮かべないだろうか。チベット仏教の僧侶のやり方はこれとは全く異なる。彼らは問答を通じて悟りに至る道を探すのである。問答は、時折拍手を打つかのように手を鳴らしつつ、リズミカルに、しかしながら留めもない調子で、一方が問いかけ、他方がそれに答える形で進行する。
外界と隔絶されゆったりとした時の流れの中で幾世代にも渡って続けられてきた修行法を通じ悟りに至る道を追求する多くの若い僧侶たち。彼らのその様は真摯だが、明るくエネルギーに満ち溢れている。「なるほど、この地上にはこんな世界も存在するのだ。」この作品に触れたとき、そんな新鮮な驚きを覚えた。万華鏡の視覚 - この作品に触れたとき本展覧会のタイトルの意図を少しだけ理解することができたように思う。
この展覧会の詳細は下記まで。
http://www.mori.art.museum/contents/kaleidoscopic/top.html
読者プレゼントのお知らせ。本展覧会御観覧ご希望の方は、住所、氏名、年齢をご記載の上、下記アドレス宛てに7月1日までにご連絡ください。抽選で5組10名様の方に本展覧会の入場チケットをプレゼントさせて頂きます。
tokyoartworld@gmail.com